働きがいのある組織(職場)をつくる(8)    なぜメンバーのスキルが低く見えるのか by 井手幸史

前回第7回で、職場が活性化した実際の事例を紹介しました。この事例には、活性化が十分でない状態とそこから活性化して行く過程での典型的な様相がいくつも含まれていますので、今回以降順次、補足しながら解説を加えていきます。

今回は、T課長が前任のマネジャー(U課長)からの引継ぎで受けた「スキルの低いメンバーが集まっていて、思いどおりの仕事をしてくれない」という言葉、およびT課長がメンバーへの面談で聞いた「指示されたとおりにやったが、それがいけなかった」という言葉の間の関係を取り上げます。

スキルが低いわけではないのに…

T課長が引継ぎを受けた後、メンバー一人ひとりに面談してみて感じたのは、聞いていたほどスキルが低いわけではなさそう、少なくとも潜在的なスキルは十分にあるという印象でした。現に、T課長はスキル面での対策を打ちませんでしたが、皆の力でプロジェクトが劇的に立ち直ったことから、T課長の見立てどおり潜在的なスキルはあったものと考えられます。

ではなぜ前任のU課長からはスキルが低いように見えていたのでしょうか。現実には複雑な要因が絡み合っているのですが、ここでは解りやすいよう単純化して、「U課長が製品のお客様先での動作不良トラブル対応について、そのお客様向けの報告資料を作成するようにメンバーA君に指示した」という局面を想定して解説します。

上司の側から見ると…

製品のお客様先でのトラブル対応に当たったA君は、お客様向け資料の作成経験はあまり多くはありませんでしたが、自分なりに時間をかけ工夫して原稿を書き、期限ぎりぎりに何とか書き上げました。U課長のレビューを受けるとU課長は、自分ならこう書くというイメージと大きく異なるA君の原稿を見て、至る所に赤入れをし、こういう風に書けるようになってほしいというU課長の思いのつまった真っ赤な原稿をA君に戻しました。A君は赤ペンのとおりに原稿を修正し、お客様への期限を過ぎていたのでそのままお客様宛と控えをU課長宛に送付しました。

この局面に限らず、これに類することが重なると、A君はU課長の指示どおりに正確に反映することに注力しようとするようになり、自分なりの工夫をしなくなってしまいました。つまり、A君が潜在スキルを持っていたとしてもそれが発揮されない方向に環境ができてしまい、成長の機会を失う結果になったことになります。U課長から見ると、A君のスキルが低いために時間がかかり、何度繰り返しても成長しないように見え、指示しなければ勝手なことをするという風に映ってしまっていました。このようにして、信頼できない部下像ができてしまい、事あるごとにそれが強化され確信のようになってしまいました。嵩じると「メンバーにやる気がない」と表現されるようにもなります。

メンバー側から見ると…

A君が送付した資料を読んだお客様からは、資料の内容に矛盾があり信用できないとお叱りをいただく結果になりました。A君の原稿にU課長が赤入れしたときに、指摘の量が多いため十分に指摘しきれていなかったところがあり、時間切れで再チェックされることなくそのままお客様に渡ってしまったことによるものでした。A君側から見ると、「指示されたとおりにやったが、それがいけなかった」というように映ります。その結果、信頼できない上司像ができ上がり、事あるごとにそれが強化されて行きました。嵩じると「方針がなっていない」と表現されるようにもなります。

見えない相互作用に気付くには…

上司もメンバーも、お互いに良かれという思いで行動しているのですが、結果的に相手にとって好ましくない行動になってしまっています。この相互作用は、相手の思いが目に見えないため、一方だけから見ると気付くのは非常に難しいものです。相手にだけ問題があるように見えてしまいます。

上司とメンバーとの間だけでなく、複数のメンバーの間にも起きますし、特に部署間など立場が異なる場合にも同様のことが起きてきます。「自分はきちんと仕事をしているのに、あの人(部署)のせいでうまく行かない」という思いをお互いに持ってしまい、関係性が悪くなってしまうことにもなります。それがストレスになり、生産性を低下させ、やりがいを失ってしまうことにもなりかねません。いわば、目に見えない相互作用が溜まりに溜まってようやく目に見える悪影響をもたらすようになるのです。指の差し合いに陥る前に、目に見えない段階で対処することがポイントです。

  

目に見えない段階では、その全体像はなかなか見えませんが、中立的な立場から個々の面談で思いを傾聴しその奥にあるものを引き出し、守秘に配慮しながら全体を整理することによって見えるようにすることができます。それができるのがキャリアコンサルタントです。

メンバーが育たない、やる気がない、あるいは部署間の関係が良くないというような気配を感じる経営者や上司の方は、是非キャリアコンサルタントに相談されることをお薦めします。

次回は、U課長の問題解決でなぜプロジェクトを立て直せなかったのかを考えます。

組織活性化についてのご意見、ご要望、お問い合わせは、お問い合せフォームから井手宛にお気軽に。

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この記事を書いたキャリアコンサルタント

井手 幸史
井手 幸史
一人ひとりの中の意欲を引き出し、職場メンバー間の連携で組織を活性化し、そこからさらに一人ひとりの成長に繋ぐ、一人ひとりと組織との間の好循環を産み出す仕組み作りのお手伝いをいたします。

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